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割増賃金が抑制するものは

2022/04/29

WORK

皆さんこんにちは。

ここ最近のブログは平易なものばかりを書いているような気がしており、それはそれで娯楽の一環として良いと感じる一方で、専門家の威厳を保つ上でも、より専門的な内容を書いた方が良いのではないかと迷いが生じている所長の飯田です。

このブログの読書諸氏はニッチャーでコアなファン層であると自覚しています。

「読みやすいものを増やし、定期的に配信を行えば読者層も増えるかもしれないな」と分かってはいるものの、「むむ、これは参考になるな」と思われる記事で攻め込みたい気持ちもあり、後者では読者数が極端に少なくなってしまい、それは事務所アピールとしては脆弱です。

さてどこに着地点を求めるべきか。
常に探求していくしかないのかな。。

さて
今日はマジメな内容に戻して進めてみます。
割増賃金率抑制力 諸外国との比較”についてです。
(こうした下りの辺りから「×」クローズされていくのかもしれない)

現在、私目は、外国人技能実習生関連の記事を執筆するにあたり、
「あれ? そういえば諸外国の割増賃金の扱いってどうなっているのだろう」
などと思いが巡り、色々と調べてみたのです。

数年前に受講した 東京労働大学 では、“日本における割増賃金率は他国と比較して低いのだ” という印象的な講義があったのも思い出しました。その際の資料を棚から引っ張り出してきて、併せて、JETROの公表している資料も読み込んでみますと、概ねこのような感じでした。

各国比較

日本における割増賃金率は、諸外国に比べて低いのです。

この割増率の低さから読み取れるのが、割増という行為が事業者への時間外労働への抑制力としては(他国と比べて)弱いということです。

詳しく書きますと、
ある国では、時間外労働をさせると、2倍の賃金給与を支払わなければならないという法制約が定められておりますと、その割増時間帯における労働生産性は1/2(半分)以下になってしまう訳です。これは、製造や就労に関する諸条件が全く同一と仮定しますと、産出される付加価値(製品やサービス)量は変わらないのに、賃金給与(コスト)は2倍になるということですから、付加価値が半分以下になってしまうということです。事業者にとっては、このような事態を避けコスト増幅させたくないが為に、何としても割増率がかかる前の時間帯で労働を終えるような圧力が向きます。割増率が高ければ高いほど、事業主に対するペナルティ的な要素も強まるため、結果として所定労働時間内における労働生産性を上げ、定時内に終わるように仕向けていくのです。

一方で、割増率が低いと、多少の割増賃金を支払ってでも労働をさせた方が産出量を増やすし収益獲得がしやすいというような考え方への誘因も生まれやすく、割増率における時間外労働の発生を抑制するような仕組みとしては力の作用が薄まってしまうと言えます。

弁証法的に、
“割増不要あるいは極度に軽い程度のものであった場合はどうなるか”を考えてみましょう。そうしますと、営利を追求する事業者としては、可能な限り働かせてその付加価値を追求した方が良いということになります。働けど働けど人件費(コスト)は時間数に比例するのみであり、その直線の傾きに変化が生じることはありません。産出量が多ければ多いほど、規模の経済や範囲の経済のようなメリットも生まれてくることでしょう。このように経済優先的な暴走が始まってしまうことでしょう。

こうした展開を防ぐためにも、事業者にとって痛手を感じさせるべくペナルティ的要素として割増賃金が抑制力として位置付けられているのです。

そしてそれは、各国の事情背景や法制定により、割増率の高低がこれほど開きがあるのですね。

ここで、
話を現代日本に戻してみます。

昨今では、時間外労働に対する一連の政策により、減少させる方向の舵取りがなされています。

しかし、抑制力どころか、労働者側からの要望で、いわば生活残業と呼ばれるようなケースもしばしば目にするなど、時間外労働を迎合や助長するような風向きさえ感じられることもあります。コロナ禍による労働時間減少により給与収入が減ってしまったという声もちらほら届いてきます。

時間外労働をさせない為の抑制力となりうるべく割増率は、そうした一方で、その率の高さが故に時間外労働を生じさせる誘因ともなるかもしれません。

割増率の高低が抑制力を生み出すという考え方を参考にしながらも、時間外労働を生じさせる誘因(生産量増加・顧客要望・臨時的対応・労働者側事情)を見つめる必要があるのではないかなと思います。

書いた人
飯田 保夫

社会保険労務士飯田事務所 所長。1981 年埼玉県生まれ。信州大学経済学部卒業、埼玉大学大学院経営管理者養成コース修了。法人の社会保険・ 労務管理支援のほかに、補助金や助成金を活用した経営改善の専門家として、首都圏を範囲に活動。役職:一般社団法人 日本介護福祉支援機構 監事など