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どこにいても労働時間が計測できる世の中になってきた

2019/07/08

携帯と時間

皆さんこんにちは。
ブログ更新が停滞している所長の飯田保夫です。

労働保険と算定基礎届のシーズンに突入し、年々増える件数を対応させていただいております。私も業務対応に入ってしまいブログが疎かに。。。

さて、
先日、とあるコラムを眺めたのですが、そこにはこう書いてありました。

「帰宅途中の電車の中で携帯電話に着信が入った。その電話に応答するために、途中駅で下車し、会社に掛け直した。この時間は勤務時間として算定される。」

と。

確かに通勤途上でも、それが会社の業務応対していたのであれば、勤務時間が発生しその時間を認識をするべきことに対する疑いの余地はありませんが、このケースでむしろ根本的に考えさせられる点は、「帰宅途中であり遠隔に離れた場所であっても、予期せず勤務時間が発生し、かつそれを計測できる世の中になっているのだ」ということでしょう。「お疲れ様でした」と退社することで勤務が一旦終わるものの、帰宅途上で計測できる勤務時間が発生する可能性があるということです。

こうしたことが可能となっているのは、ずばり携帯電話の普及に他なりません。

携帯の使用に関するものでは次のような判例があります。

この判例からは、勤務時間中の私用メールや電話の頻度に焦点が向けられます。

ここで“労働時間とは何か”を考えてみます。

労働時間とは、労務提供を行うべき時間であり使用者にとっては指揮命令権が及ぶ時間帯であります。働いている側からしますと、職務専念義務生じている時間帯を言い、指揮命令の下に入る時刻からそれが終わる時刻までの間をいうということになるでしょう。労働時間は基本的に日々1分単位で労働時間管理を行うこととされております。

携帯電話の普及は、勤務時間中に外部と私用のやりとりをできる機会をもたらしました。特に、会社の外で業務を行う者は、会社が見えていないところで私用の電話を行うことも可能です。携帯電話普及前の時代は、目に見えない場所での勤務は、裁量制度や見なし制度を利用し、推定での測定が相応しいものでした。ところが現代では、計測しようと思えば、どこに何時間いたのかまで場所も時間も使用者側で測定することが技術的に可能となってしまいました。

こうした時間測定は、勤務時刻の始まりから終わりまでを測定可能とします。
問題は、その勤務時間内に、勤務や指揮命令から外れていた私用時間帯も計測可能であり、それが通常やむを得ない程度を超えるのであれば、労働時間から除外するというのがルールとして考えられるのではないか、つまり、「その時間が労働時間であったのかの評価を行う必要がある」ということになるのではないかと思われます。
LINEのような一度の操作時間は僅かであっても、その回数や頻度によっては、業務への意識集中度の観点も含め、集積するとそれこそ1分単位で労働時間と呼べない時間帯もあるのではないか、その通信の一つ一つが社会生活上やむを得ないものなのか、そうではなく全く業務とは関係のない私用に過ぎないものなのか。帰宅前に、会社にこうしたプライベートを開示し労働時間の算定を行うというのも何だか非現実的な気もしますね。

ここまで考えますと、事業主側としては、一定度の私用を黙認した上で携帯電話の利用を許可するか、もしくは完全に持ち込み禁止を取るかという具合になりそうです。外回り業務であり私物の携帯電話を使用している場合、労働者の携帯使用頻度やその内容を提示していただかないと1分単位の労働時間測定は不可能です。会計的な保守主義の観点からすると、大盤振る舞いはしたくありませんから、始業終業時刻を計測するとともに、途中で離脱している時間があるのであれば、それは除外したいというのが経営的観点になるでしょう。労働者側からの開示が不可能であれば、勤務時間中は私物携帯は使用禁止として、会社支給に切り替えるという手段もあります。

実際、労災申請において、被災者の労働時間測定に当人のLINE通信記録をプライベートなものを含めて開示し、労働時間の集計を行った事例が当事務所にありますが、計測するのに相当な労力が必要でした。

社会環境の変化や計測できる機器類の登場により、労働は変容していきますね。
どこにいても労働時間が計測できてしまう世の中を労働基準法はどのように相対していくのでしょうかね。

書いた人
飯田 保夫

社会保険労務士飯田事務所 所長。1981 年埼玉県生まれ。信州大学経済学部卒業、埼玉大学大学院経営管理者養成コース修了。法人の社会保険・ 労務管理支援のほかに、補助金や助成金を活用した経営改善の専門家として、首都圏を範囲に活動。役職:一般社団法人 日本介護福祉支援機構 監事など